今回の相談者は、遺産相続問題の渦中にいる法定相続人(次男)からの依頼である。
父親が他界するという不幸中、49日の法要も終え法定相続人である2人兄弟の間で遺産分割協議書を作成するため、実家で財産目録を整理していると、父親の書棚から長男が遺言書を発見したことが事の発端である。
その内容は、息子達に平等に遺産を相続させるという遺言書ではなく、父親の面倒を見てきた長男が全て相続するという内容ものであった。
当然、2人兄弟で平等に分配されるものと思っていた相談者(次男)は、父親の遺言書の内容に驚きを禁じえなかった。
しかし、長男は、生前に父親の面倒を見ていたのは自分だから、父親の遺言通り当然の権利だと主張している。
相談者は、遺留分はともかくとして、長男が全て相続するという内容は不自然であり、遺言書は偽造ではないかと疑念を抱くようになった。
しかも、預貯金は長男が既にどこかに移したようで、残高はほとんど残っていなかったが、土地と建物は父親名義である。
そこで、今回発見された遺言書が本当に父の遺言状であるのか真を問うことになり、偽物か偽造された遺言書ではないのか真実を確かめる目的で遺言書の筆跡鑑定を依頼することになった。
遺言書の筆跡鑑定で、まず重要なのは、遺言書と比較する対照資料が、客観的に見て故人の筆跡であることが最も重要となる。
そこで、今回は、対照資料となるものは、亡くなった父親から法定相続人あてに差し出された年賀状などを提供いただいた。
対照資料は、できるだけ遺言書の奥書に記された年月日に近いものであることが望ましく、それら年賀状の筆跡と遺言書の筆跡を鑑定した。
筆跡鑑定の判定結果としては、署名は亡くなった父親のものであることが判明した。
しかし、その署名以外の本文の筆跡については、父親の筆跡と異なっている可能性があるため、対照資料を基に精査することとした。
すると、父親が署名した遺言書に、別人が加筆して文言を書き加えた遺言状であることが判明した。
偽造であれば、遺言書自体が無効となるわけであるが、では、誰が加筆したものなのかということである。
当初、犯人探しをする必要はないと相談者は言っていたが、それでは気持ちが悪いので、白黒をはっきりさせるため、法定相続人である兄弟の筆跡を提供していただき、筆跡鑑定をすることとなった。
ここでも対照資料は年賀状である。
偽造された遺言書の加筆部分の筆跡と、法定相続人である兄弟両者の筆跡を照合すると、長男の筆跡と合致した。
【参考情報】
遺言書が偽造された?遺言書鑑定で改ざん、捏造を立証する!
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